客演の出本さんが他の客演を紹介する。 同じ客演でありながら他の客演の紹介だけさせておくのもいかがなものか。 僭越ながら、中村から出本雅博の紹介をさせていただこう。
ひと言で言ってしまえば。
トリックスター。
世界大百科事典には「策略を用いる狡猾さ・賢さを賞賛される一方,欲望を制御できずに失敗する 愚かさ・滑稽さを笑われる者であり 」と著述される一方「固定的な秩序へのおどけた批判者,思 考の枠組みの解体者 」との記述がある。
舞台上の出本雅博を見るに、ひたすらにトリッキーな動きが目に留まる。当然に周囲は翻弄され
る。一概には言えないが、「欲望を制御できない」「笑われる」存在として彼を「トリックス
ター」と定義するのには一定の合理性がある。
その一方で、いかに外形がトリッキーであっても、はたしてストーリーの進行上あるいは内面の
展開として失敗・破綻しているかといえば、これは明確に否定できる。
「このシーンどう読んでもそうはならんやろ!」
トリッキーな外形をこのように形容したとして、では仮に台本をごくオーソドックスに読解して
立体化した場合と比較して展開が破綻するかといえば、全く破綻していない。むしろそこに描か
れる情緒が強調され、哀しさはより哀しく、美しさはより美しく、そうでないものはそれなりに
描写される。すなわちその外形とは裏腹に、彼の読解は極めてオーソドックスで合理的である。
賞賛されるべき「賢さ」である。しかも強調から誇張に逸脱するギリギリのラインを針で突いた
ように攻めてくる。「狡猾」である。もちろん褒めている。
オリゴ党初登板は「天才だって死ぬ」。6 年前。わずかこれだけの時間でオリゴ党になくてはなら ない存在になってしまった。ひとえに「思考の枠組みの解体者」たる彼の資質のなせる技だろう。
どこまでいってもトリックスターだ。
――こんなやつに勝てる訳ねえだろ!